表紙

背景

創造は、分散し始めている

From Control to Co-Creation

従来の創造

  • 中央集権的な計画と制御
  • トップダウンによる創造
  • 企業・専門家による独占
  • 受け身の消費者

Based on the industrial information economy model – Empire and Communications, Innis (1950)

参加型の創造

  • ユーザーによる共創・拡張
  • OSS・Wikipedia などの分散協働
  • インターネットを介した整合性の試み
  • 物語、知識、コードの「共創」文化

Concepts of “peer production” and the “networked public sphere” – The Wealth of Networks, Benkler (2006)

すべての創造領域が変わったわけではない。
それでも、「共創」はすでに一部の領域で現実として機能し始めている

OSS Logo

Open Source Software

誰もが参加し改善できるコードの集合知

Mark Aberdour (2007), Achieving Quality in Open-Source Software, IEEE Software

Wikipedia Logo

Wikipedia

分散された知識編集と検証の実験場

Caroline Haythornthwaite (2009), Crowds and communities: Light and heavyweight models of peer production, Proceedings of the 42nd Hawaii International Conference on System Sciences

YouTube Logo

YouTube

個人による発信と視聴者参加の文化

Youtube online video and participatory,Henry Jenkins, Jean Burgess, and Joshua Green (2018), YouTube: Online Video and

このような共創の文化は、ソフトウェアや知識の領域にとどまらず、エンターテインメントの世界にも 確実に広がりつつある 。

Evangelion Visual

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は、全4部作からなる構成で、
『:序』『:破』『:Q』『:𝄇』と展開された。

このうち第2部『:破』と第3部『:Q』の間には、14年もの空白期間が存在していた。
その間、物語の詳細が明かされなかったことで、ファンたちはさまざまな憶測を交わし、自発的に二次創作を行って補完し合った。

STEP 1

ファンが物語を補い合う

『エヴァ』の空白期間、解釈と創作が自然に広がった。

STEP 2

生まれる問い

最初から一緒に物語を創ることはできないのか?

STEP 3

研究の出発点へ

物語における「共創」の仕組みと可能性を探る。

研究課題

「物語の世界に共創を」

共創型の創作基盤を探究する。

多くの参加者が、一つの物語世界に対して、それぞれの視点や発想で新たなエピソードを自由に追加し、物語を広げていくには、どのような仕組みが必要だろうか?

現在の課題

整合性の維持が困難

ストーリーの語り口やキャラクターの一貫性を保つための仕組みが不足しており、物語全体の信頼性が損なわれやすい。

協働構造の未整備

役割分担、レビュー、品質管理といった協働のフレームが整っておらず、参加のハードルが高い。

持続的参加が難しい

貢献の可視化や評価、動機づけ設計が弱いため、継続的に関わる参加者が育ちにくい。

技術基盤の不足

分散したエピソードの統合や、物語世界の更新・共有を支えるためのインフラが不十分。

Joy Kim, Sarah Sterman, Allegra Argent Beal Cohen, Michael S. Bernstein (2017),Mechanical Novel: Crowdsourcing Complex Work through Reflection and Revision, Proceedings of the 2017 ACM Conference on Computer Supported Cooperative Work and Social Computing.

共創のデザイン

STEP 1

マップ型UIによる物語の構造化

物語マップでエピソードの関係性を可視化。文脈を踏まえた接続と拡張が可能になり、整合性のある創作が促進される。

STEP 2

物語要素の分解と構造化

生成AIで登場人物や感情・行動などの要素をJSONとして抽出し、ルールベースで整合性を検証。

STEP 3

CI/CD的な自動検証

エピソード投稿時に自動的に整合性をスコア化し、NGならフィードバック、OKならマージ。OSS品質管理の応用。

STEP 1

マップ型UIの発展

「1つのエピソードからはじまる物語」は、共創の過程で分岐し、やがて複雑な構造へと成長していく。その進化を3段階でたどる。

最初のエピソード

最初のエピソード

物語世界は最初、単一のエピソードから始まる。登場人物・世界観・文体の土台が提示され、参加者はそれを読み取る。

分岐や続編

分岐や続編

他の参加者が既存エピソードを起点に、新たな視点や展開を加えていく。物語は枝分かれし、多様性と選択が生まれる。

物語の発展

物語の発展

ノードの人気や整合性が視覚的に反映され、ユーザーは俯瞰的に物語構造を把握できる。共創の全体像がここに現れる。

STEP 2

物語要素の分解と構造化

無秩序なエピソードの追加ではなく、整合性を保ちながら自由な創作を支えるため、各エピソードを構造化し、自動で一貫性を検証する仕組みを導入する。

{
  "episode": {
    "title": "Reunion in the Ruins",
    "timeline": {
      "start": "Post-Q",
      "end": "Pre-Final"
    },
    "location": "Tokyo-3 ruins",
    "style": ["tense", "introspective"]
  },
  "characters": {
    "shinji": {
      "emotion.current": "confused",
      "action.type": "search",
      "action.scope": "answers",
      "action.context.location": "Tokyo-3 ruins"
    },
    "asuka": {
      "emotion.current": "frustrated",
      "reaction.trigger": "shinji.help_offer",
      "reaction.type": "reject"
    }
  },
  "assets.present": ["Eva Unit-02", "data capsule"]
}

分解例:エピソードの構造化JSON

1. 構造化変換

生成AIが各エピソードから、登場人物・感情・出来事・関係性などを抽出し、機械可読なJSON構造に変換する。

2. ルールベース検証

スキーマとルールエンジンにより、物語の整合性・スタイル・語彙の一貫性・矛盾の有無をチェック。

3. スコア化とフィードバック

検証結果に応じて整合性スコアが提示され、NGの場合は修正ポイントをフィードバック。OKであれば自動マージ。

整合性スコアのビジュアル

整合性スコアの可視化イメージ

STEP 3

CI/CD的な自動検証

ソフトウェア開発では、コードが提出されるたびにテストが実行され、明らかなバグやルール違反を事前に検出する仕組み(CI/CD)が確立されている。物語の共創においても、同様の検証ステップを導入できるのではないか?

ソフトウェアにおけるCI/CD

ソフトウェアにおけるCI/CD

ユーザーの投稿に対して、自動的でテストやスタイルチェックが走り、問題なければレビューへ進む。人の負担を減らしつつ品質を保つ構造。

物語における自動検証と整合性の確保

物語における自動検証と整合性の確保

新たなエピソードの投稿時、キャラクターや感情・時系列・関係性が自動で検証され、スコア化とフィードバックが提供される。一定基準を満たせば自動マージも可能に。

ソフトウェアの品質管理手法を物語創作に応用する試み。

結論

本発表では、物語における「共創」の可能性について考察し、 その具体的な課題と解決に向けた設計方針を示しました。

特に、参加型創作における整合性の維持、協働構造、持続性、 技術基盤の整備といった課題に対し、UI設計・要素分解・自動検証といった 具体的なアプローチを提案しています。

今後の展望

STEP 1

物語分解スキーマの整備

新たなエピソードを自然言語から構造的に捉えるためのスキーマとルールを設計。 様々なジャンル・語り口に対応する柔軟性を重視する。

STEP 2

ライブラリの公開

誰でも物語分解・整合性チェックができるように、共通仕様・拡張性を備えたオープンソースライブラリとして実装・公開。

STEP 3

共創ツールの検証実験

4人×4組による比較実験を通して、ツール有無による物語共創の質的変化・参加意欲・協調性の違いを評価。

STEP 4

共創環境の構築

OSSやWikipediaなど、既にうまく機能している共創の仕組みを参考にしながら、 物語共創に最適化された環境を構築していく。

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